;紗耶視点シナリオ ;背景:叙瑠樹キッチン ;紗耶立ち絵:通常 ;紗耶 服:浴衣 表情:通常 [紗耶]「ふう」[pcm] [夏輝]「洗い物、終わったか?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 沙耶「うん。終わったよ」[pcm] [夏輝]「じゃ、ちょい出かけてくる」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:笑顔 沙耶「はいはい。頑張ってねー」[pcm] [夏輝]「あいよー」[pcm] 夏輝は今日も、『思い出探し』の旅に出ている。[pcm] すごく意気込んでいるのが、本当は嬉しい。[pcm] 夏輝は気付いてないかもしれないけれど、私は昔から……今でも、アイツの事が好きだ。[pcm] 一緒にいてあんなに気を許せる相手は、今まで他に出会った事が無い。[pcm] うまく説明出来ないけど、癒し系とでも言うべきなのか。落ち着く。[pcm] 夏輝も言ってたけど、一緒にいると、楽しい。[pcm] 父さん達の旅行の話が出た時だって、夏輝に逢えると喜んだ。実は、部屋で一人で踊りだすほど嬉しかった。[pcm] でも……私はこんな性格だし、素直になれない事が殆ど。恥ずかしさを誤魔化すために、つい夏輝を蹴ったり殴ったりしてしまう。[pcm] 昔からそんなノリだったから、突然変えるのも変だと思うのもあるけれど。[pcm] [紗耶]「返事なんて決まってるみたいなもんなのに……」[pcm] 私との思い出を何も覚えていない夏輝にちょっと苛立って、あんな条件だしてしまっただけ。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:照れ [紗耶]「こ、こ、今夜あたり、いいよ、って答えちゃおうかなぁ……」[pcm] うわ……ちょっと思っただけなのに、顔が熱くなるのが自分でもわかる。[pcm] ;夏祭り後回想 [夏輝]「俺、昔溺れたときに記憶喪失になってるんだよ」[pcm] あんな話、本当だとは思いもしなかった。記憶喪失なんて、本やドラマの中で見るくらいで、まさか身近に居るとは思わないじゃない。[pcm] 結構苦労したのかな? そんなそぶりは見せないけど。[pcm] ……でも、その事故、私も傍に居たっていうのよね。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:考え事 [紗耶]「記憶にないなんて、夏輝じゃあるまいし……」[pcm] 覚えてないってスッキリしない。アイツはなんで平気なんだろ? 手っ取り早く事実確認しておきますか。[pcm] ;SE:足音 ;背景:叙瑠樹階段付近 ジーコロ、ジーコロロ…… 電話のダイヤルを回す。[pcm] 手元には、親が泊まるホテルの電話番号が書いてあるメモ。[pcm] ;SE:トゥルルルル……がちゃ 紗耶父「はい、小翠です」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「もしもし、お父さん?」[pcm] 紗耶父「おー、紗耶か。夏休み楽しんでるか?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「まあね、それなりに」[pcm] 紗耶父「まさかと思うが、何も間違いは起きてないよな?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:ジト目 [紗耶]「何言ってんの、電話代もったいないから、用件のみつたえまーす」[pcm] 紗耶父「お前という娘は淡白だな。父さん寂しい」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:呆れ [紗耶]「それなりに親孝行はしてるつもりですけど?」[pcm] 紗耶父「ハハハ……。紗耶には敵わないな」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「ちょっと聞きたいんだけど。昔夏輝が溺れた事があったらしいじゃない?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「その時、私って現場にいたの?」[pcm] 紗耶父「え?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「だから、夏輝が溺れた時、私そこに居たのかって」[pcm] 紗耶父「電波が遠くてよく聞き取れないんだが」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:呆れ [紗耶]「お父さん。これ携帯電話じゃないから、そんな事ないはずよ」[pcm] 紗耶父「そうか、文明は進歩してるんだな」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:怒り [紗耶]「お父さん?」[pcm] 紗耶父「紗耶ちゃんそう怒らないで。当時の事は俺もそう覚えていないんだよ」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:怒り [紗耶]「結構大変だったみたいだけど? そんな事忘れる?」[pcm] 紗耶父「あー、年かな? 気分はまだまだ若いけど、年なのかな? ははは」[pcm] この人は本当に嘘つけない人ね。[pcm] 話す気が全くないという事だけはわかった。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:呆れ [紗耶]「わかった、もういいわ。他をあたってみるから」[pcm] 紗耶父「あー、きっと皆も忘れてるかもしれないぞー。お年寄り多いからねー」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:呆れ [紗耶]「あー、はい、そうですねー。じゃね」[pcm] ;SE:電話切る音 ;紗耶 服:通常 表情:困惑 [紗耶]「あそこまで隠されると余計に気になっちゃうじゃない」[pcm] お父さんも、そろそろ娘の性格を把握しておいた方がいいんじゃないかしら? ;紗耶 服:通常 表情:真面目 [紗耶]「私も思い出探しと参りますか」[pcm] もやもやとしているより、動いている方がいい。[pcm] 手早く準備をし、外へ出かけた。[pcm] ;背景:民家のある風景(畑とかあるのってあったっけ?) 眩しい。[pcm] 夏の光は強烈だなあ。[pcm] 家を出て、人の姿を探しながら歩く。[pcm] 今は本土の方の学校へ行っているとはいえ、夏輝よりはこの島に居る月日がずっと長い。[pcm] どこら辺に行けば人が居るかくらいは、大まかに把握している。[pcm] 畑の方に、見知った人影を見つけた。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:笑顔 [紗耶]「おばさーん! こんにちはー」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「あら、紗耶ちゃん、こんにちは」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:笑顔 [紗耶]「今日も暑いのに、畑仕事ご苦労さまです」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「いつまでこの暑さ、続くんだろうねぇ。そろそろキュウリの収穫も終わりごろね」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「紗耶ちゃん。キュウリと茄子、それとトマト持っていく?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:驚き [紗耶]「わ! いいんですか? いつも貰ってばかりなのに」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「夏輝ちゃんも来てるんでしょ? 育ち盛りの男の子だもの。沢山食べるんじゃない?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:笑顔 [紗耶]「あはは。確かによく食べてますね」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「紗耶ちゃんの手料理がよっぽど美味しいんだねえ」[pcm] なんだか気恥ずかしい。[pcm] おばさん達と話す時、たいてい私は褒め殺しにあう。ここは愛想笑いで流すしか。[pcm] [紗耶]「……あの、おばさんは知ってる? 夏輝が海で溺れたって話」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「え? さっき元気に海の方へ歩いていってたけど……まさか?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:考え事 [紗耶]「あ、いやいや、最近の話じゃなく、昔の話。子どもの頃の話ですよ」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「ああ、良かった……。昔の事ね、昔の」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「……」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:疑問 [紗耶]「おばさん?」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「え? ああ、ごめんなさい」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「さあ、見に行ったわけじゃないから、詳しくは知らないねえ」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「夏輝ちゃんが今元気なら、それでいいじゃないの」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:困惑 [紗耶]「う、それはそうなんだけど……」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「それより、折角夏輝ちゃんが来てるんだから、一緒に遊びに行けばいいのに」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:慌て [紗耶]「え? いや、別にアイツは親がいないから、ここで過ごしてるだけで、私だってただ世話するだけで……」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「ふふ、久しぶりに会うと照れる? 女の子だねぇ」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:困惑 [紗耶]「もう、大人は皆そうやって、からかうんだから」[pcm] だめだ、おばさんまで隠すのか。[pcm] 夏輝が会って話をきいた、あやめさん達にあっても誤魔化されちゃうんだろうな。[pcm] 夏輝の所へ行って、何か進展あったかきいてみようかな。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「お昼も近いんで、夏輝呼びに行きます、お邪魔しました」[pcm] ;おばさん 立ち絵 おばさん「あらそう? じゃあ帰るくらいには、ここに野菜入れた袋置いておくから、持っておいき」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「はい。ありがとうございます」[pcm] 足早に畑を後にする。[pcm] ;背景:埠頭 ;紗耶 服:通常 表情:笑顔 [紗耶]「あ、いたいた」[pcm] 防波堤のところで、寝転がっている夏輝の姿を見つけた。[pcm] 全く……。頑張るとかいいながら、もうバテたのかコイツは。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「そろそろお昼よ。ほら、起きて」[pcm] [夏輝]「もうちょい休むー」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:呆れ [紗耶]「こんなところで寝ると落ちるわよ。起きなさいってば」[pcm] 仰向けに寝転んだ夏輝を揺さぶる。[pcm] ;SE:どくん(心音) 目を閉じて眠っている夏輝の顔に、何かが重なった。[pcm] ……気のせい、だろう。[pcm] [夏輝]「ちょっと。あとちょっと。あと5分……」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:怒り 沙耶「ほーら。ちゃっちゃと起きる!」[pcm] ;SE:どくん(心音) 再び。夏輝を揺さぶった瞬間。私の頭がおかしくなったのだろうか。[pcm] 目の前の夏輝に、何かが重なる。[pcm] 青白く、ぐったりした……小さな、夏輝の顔。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:慌て [紗耶]「夏輝!」[pcm] 怖くなって、更に強く夏輝の肩を揺さぶった。[pcm] [夏輝]「うお!」[pcm] [夏輝]「なんだよ。起きるよ、ちょっとくらい待ってくれても……」[pcm] 面倒くさそうに身体を起こす夏輝。[pcm] 良かった。起きてくれた。[pcm] ……良かった? 起きるのは、当然だろう。[pcm] 私は何を……怖がっている? 心臓が激しく動く。頬を伝う汗が冷たい。[pcm] [夏輝]「ん? どした? 紗耶」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:困惑 [紗耶]「っ……。な、なんでもない。日差しが強くて眩暈がしただけよ」[pcm] [夏輝]「太陽は強いなー。紗耶に眩暈を覚えさせるとは」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:考え事 [紗耶]「あは……そうね」[pcm] [夏輝]「?」[pcm] [夏輝]「紗耶?」[pcm] 憎まれ口にも反応出来ない。[pcm] 気持ち悪い。[pcm] はっきりしないと気持ち悪い。[pcm] 思い出せない部分があるという事で、強い焦燥感に苛まれる。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:考え事 [紗耶]「ねぇ、夏輝。アンタが溺れた時って」[pcm] [夏輝]「祭りの時に話した事が、俺の知ってる事の全部だよ」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:考え事 [紗耶]「うん、わかってる。でも、新しい情報とか見つかったかなって」[pcm] [夏輝]「すまん。まだ何も……」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:困惑 [紗耶]「あー、そういう辛気臭い顔やめて。そんなつもりで言ったんじゃないし」[pcm] 無駄に罪悪感にかられる夏輝を見て、少し苛だった。[pcm] ……違う。[pcm] 悪いのは夏輝じゃない。多分、悪いのは……私。[pcm] [夏輝]「大丈夫か? 紗耶こそ、少し休んでいった方がよくね?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「いや、いい。大丈夫だって」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:通常 [紗耶]「それより、昼ご飯」[pcm] [夏輝]「いいから、少し休めって」[pcm] 夏輝に引き止められ、仕方なくその場で休む。[pcm] ;SE:波の音 少し目を閉じると恐怖が増した。[pcm] 怖い。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:ぷいっ [紗耶]「ここは嫌。どこか、他所へ行きたい」[pcm] [夏輝]「仕方ねえな、ほら」[pcm] 夏輝が私を力強くひっぱり起こしてくれる。[pcm] ;SE:ごぼごぼ (水音) 脳内に嫌な音が響く。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:恐怖 沙耶「っ……!」[pcm] 大変だ。夏輝につかまらなきゃ。[pcm] [夏輝]「おあっ!」[pcm] [夏輝]「いきなりしがみつくなよ!」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:慌て [紗耶]「バ……バランス崩したのよ! アンタが、強くひっぱるから!」[pcm] [夏輝]「そんなに強かったか?すまん」[pcm] わけがわからない。[pcm] 夏輝のせいじゃない。[pcm] つい、夏輝に責任をなすりつけてしまったけれど。[pcm] 気持ち悪い。スッキリしない。[pcm] 夏輝は……悪く、ない。きっと、悪いのは……私。[pcm] ;背景:叙瑠樹居間の夜 [夏輝]「紗耶。キュウリ切ったけど、お前も食う?」[pcm] 昼におばさんから貰ったキュウリを食べようと、夏輝がキッチンの方から叫んでいる。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:寂しい [紗耶]「……いらない。先に寝る」[pcm] 海から帰ってきてずっと、けだるい。[pcm] [夏輝]「昼もあまり食ってないし、本当に大丈夫なのか?」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:寂しい [紗耶]「うん。大丈夫、だよ」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:寂しい [紗耶]「おやすみ……」[pcm] [夏輝]「おう、おやすみ」[pcm] ;背景:紗耶の部屋(あるのか!?) [紗耶]「明日あたりに、お父さんを問い詰めよう」[pcm] このままじゃ滅入っちゃいそうって言えば陥落するかな。[pcm] 兎に角、今日はもう休もう。[pcm] ;SE:ぱち 電気を消す音 ;背景 紗耶の部屋(明かりを落とした状態) ;背景 ゆっくりと画面を真っ白に。[pcm] ;背景:埠頭 ;SE:波の音 ;立ち絵なしの為少々地の文が増えます。[pcm] [紗耶]「なーつーきー!」[pcm] [夏輝]「お、紗耶。来たか」[pcm] 小さな男の子と女の子。どうやら、待ち合わせをしていたようだ。[pcm] ……ああ、この二人は幼い頃の私と夏輝だ。[pcm] [夏輝]「遅いよー。昼ご飯食べたらすぐ、一緒に魚釣りし……よ……って……」[pcm] [紗耶]「ふふー。どう? この服、可愛いでしょ」[pcm] 白いワンピースを魅せつける様にくるりと回る。[pcm] お母さんにおねだりして作ってもらった、『初めての女の子らしい服』。[pcm] 出来上がって、嬉しくて、すぐ着て遊びに出たんだ。[pcm] [夏輝]「あー、うん。いつもの紗耶と違うね。か、可愛いと思うよ」[pcm] 目をそらしたら見えないじゃない。[pcm] ……あ。顔を真っ赤にしてる。照れてるんだ。[pcm] [夏輝]「そういう服って『お出かけ用』なんじゃねーの? 汚れちゃうよ?」[pcm] [紗耶]「だから、夏輝との『お出かけ』で、着てるんじゃない」[pcm] 違う。本当は、夏輝に最初に見せたかったから。[pcm] [紗耶]「ねえ。もう魚釣れた?」[pcm] [夏輝]「うん! 今日は大漁だぞ! バケツの中見てみろよ」[pcm] バケツの中には二匹の魚が元気よく跳ねている。[pcm] [紗耶]「すごーい! 今日の夕飯はご馳走だね!」[pcm] 夏輝の顔を覗き込む、幼い私。[pcm] 見ていてわかるのは、意識して女の子らしく可愛く振舞おうという、健気な女心。[pcm] [夏輝]「あ、あんまり近寄るなよー。竿持ちにくいだろ」[pcm] 夏輝の方も、そんな私に照れて困惑している様子。[pcm] 普段なら押し返したりするのに、夏輝は幼い私に触ろうともしない。[pcm] [紗耶]「いつもと同じくらいしか近づいてないよ」[pcm] [夏輝]「うっるせなー。そこの網もって、魚釣れた時の為にかまえとけ」[pcm] [紗耶]「はーい」[pcm] [夏輝]「あっ!」[pcm] [紗耶]「あ! お魚、かかった!」[pcm] [夏輝]「へへ。すぐ釣りあげるからな!」[pcm] 夏輝は小さい体で、力いっぱいに竿を振り上げる。[pcm] しかし、竿は曲がるばかりで、なかなか魚は水面に浮いてこない。[pcm] [夏輝]「ぐっ……おも……いっ!」[pcm] [紗耶]「おっきいの?」[pcm] [夏輝]「デカイっ! 一気に引き上げるぞ」[pcm] 素早くリールを巻く夏輝。[pcm] ;SE:ばしゃ(水音) [夏輝]「重っ!」[pcm] [紗耶]「あ、網っ!」[pcm] [夏輝]「紗耶! まだ!」[pcm] [紗耶]「あ、きゃっ……!!」[pcm] ;SE:ざぶん(派手な水音) ;背景:海の中 ;SE:ぼこぼこ(水音) どうやら、私は足を滑らせて、海の中へ転落したようだ。[pcm] 目を開けると、水面に差し込む光が眩しく見えた。[pcm] 私の口からこぼれ出る息が泡となって海上へ向かって昇っていく。[pcm] [紗耶]「(……苦しい……早く上にあがらなきゃ!)」[pcm] 自信があった。私は泳げると。[pcm] すぐに陸にあがって『落ちちゃった』なんて、照れ笑いするしかないな、なんて考えられる程。[pcm] けれど、そんな余裕など、すぐに泡となって消えていった。[pcm] [紗耶]「(!)」[pcm] [紗耶]「(スカートが足に絡み付いて離れない!)」[pcm] 足に絡みついたスカートは、動けば動くほど巻きつく様に思えた。[pcm] 足が、思うように動かない。[pcm] 私の体は、どんどんと沈んでいく。[pcm] 頭上にきらめく水面が、どんどん遠くなっていく。[pcm] 慌てた私は口を開く。そこから、わずかに残っていた空気が逃げていく。[pcm] あとは混乱と恐怖。それしか残っていなかった。[pcm] 鼻にも口にも、海水が容赦なく流れ込んでくる。[pcm] 鼻の奥が痛い。喉の奥が痛い。[pcm] もう駄目だ。意識が……遠くなる。[pcm] 海面が遠く、そしてぼんやりとしていく。[pcm] ;SE:ざぶん(水音) 海面が、揺らめいた。そして、何かがこちらへ泳いでくる。[pcm] [紗耶]「(夏輝……)」[pcm] 夏輝の顔が見える。[pcm] 海の闇にひきずり込まれそうになっていた私に、光が見えたようだった。[pcm] 夏輝が手を伸ばしてきた。私は怖くて、怖くて、強く夏輝にしがみついた。[pcm] 夏輝が、しがみついた私を跳ね除けようとする。[pcm] ……違う。私の体は、真横へ移動させられた。[pcm] 背中に、何かが当たった。コンクリートの、テトラポットだ。[pcm] 夏輝が、私に勇気をくれた。[pcm] その勇気が、私の体に残った力を振り絞ってくれた。[pcm] 必死に、テトラポットを登る。海面にあがり、必死に求めた空気を、肺に満たす。[pcm] 夏輝も、すぐ後についてくると信じて。[pcm] 信じて……振り返る。[pcm] 夏輝は、少し、遠く。[pcm] テトラポットにしがみついては……いなかった。[pcm] 海中をたゆたう、夏輝の体。[pcm] [紗耶]「夏輝!」[pcm] [夏輝]「……」[pcm] 夏輝が、何かを言いかける。しかし、その口からは大きな泡が出るだけだった。[pcm] 伸ばされた手が、遠くへ。遠くへ。[pcm] ……沈んで、いく。[pcm] [紗耶]「だれかああああああああああああああああああああっ!!」[pcm] [紗耶]「助けてーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」[pcm] 気が狂わんばかりに叫んだ。声がつぶれるんじゃないかと思うほど。[pcm] あれだけ必死に求めた空気の全てを振り絞って。[pcm] 近くに居たのだろうか。漁師のおじさんが走ってくるのが見える。[pcm] おじさんは私に構わず、すぐに飛び込んで海に潜る。[pcm] ……… …… … 二人が少しでも早く顔を出してくれるのを願った。[pcm] その時間がどれくらいだったかなんて、わからない。[pcm] ただ、とてつもなく、果てしなく長い時間だったような気がする。[pcm] ようやく顔を出してくれた時には、握りこんだ私の手は血の気が失せて真っ白になっていた。[pcm] [紗耶]「夏輝! 夏輝い……」[pcm] [オッサン]「紗耶ちゃん、他の大人を呼んできてくれ! 大声あげて走っていけ!」[pcm] [紗耶]「夏輝ぃ……」[pcm] [オッサン]「早く行け!」[pcm] [紗耶]「! ……はい!」[pcm] おじさんに怒鳴られて、はじけるように民家の方へ走り出した私。[pcm] [紗耶]「たすけてーーーーーーー! 夏輝が溺れちゃったよーーーーーーーー!」[pcm] 力の限り叫んだ。[pcm] [紗耶]「誰か来てーーーーーーー! 夏輝を助けてーーーーーーーーーー!」[pcm] 喉が潰れても構わない。[pcm] 気を抜けば、膝が崩れ落ちてしまいそうだった。[pcm] 大人たちが、何事かと集まってきた。[pcm] 誰かが『医者だ!』と言った。[pcm] 私は来てくれた大人達を、夏輝達のいる場所へ連れて行く。[pcm] [紗耶]「夏輝が……夏輝が……」[pcm] 手足が痺れてきた。[pcm] 気付かないうちに私は泣いていた。[pcm] [オッサン]「こっちだ!」[pcm] 助けてくれたおじさんが心臓マッサージをしている。[pcm] 青白く生気の無い夏輝の顔。[pcm] [紗耶]「夏輝! 夏輝! 死んじゃヤダよっ!死んじゃやだよう……」[pcm] 冷たい夏輝の手を握り、何度も何度も何度も声をかける。[pcm] [夏輝]「ごぼっ……!」[pcm] 夏輝の口から水が吐き出される。[pcm] [紗耶]「夏輝! 大丈夫? 夏輝!」[pcm] 握った手は、まだ握り返される事がない。[pcm] 夏輝の口が開き、かすれて音にならない言葉を発する。[pcm] [夏輝]「……だ……れ?」[pcm] …… 頭が、真っ白になった。[pcm] ;背景:紗耶の部屋 ;紗耶 服:通常 表情:慌て [紗耶]「……っ!」[pcm] ;SE:がばっ(蒲団から起き上がる音があれば) ;紗耶 服:通常 表情:恐怖 [紗耶]「はあ、はあ……」[pcm] 自分の両腕をつかむと、パジャマがぐっしょりと汗を含んでいた。[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:恐怖 [紗耶]「……そうだ。あの日の事故は……」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:恐怖 [紗耶]「夏輝の、あの事故は……」[pcm] ;紗耶 服:通常 表情:悲しい [紗耶]「私の責任だ……」[pcm] [END]