イベント10 ;背景:叙瑠樹前 もも「おはよー、紗耶ちゃん!」 紗耶「おはよ、もも。こんな早くからどうしたの?」 もも「えへへー、今日はお兄ちゃんと遊ぶ約束してるんだー」 もも「お兄ちゃん起きてる?」 紗耶「え? あぁ、起こしてくるわね」 紗耶「ちょっと待ってて」 ;背景:夏輝自室 紗耶「夏輝ーーーーーーーー! ももが来てるわよーーーーーーーー!」 夏輝「む、もうそんな時間か……?」 まだ夢うつつ。 出来ればもう少しこのまま眠っていたい。 名残惜しむように、もぞもぞと寝返りをうつ。 蒲団ってなんでこう甘えたさんなんだろうなー、俺を放さないって感じでー、可愛いヤツめー、このタオルケットめー。 ;SE:衝撃音 夏輝「ゾゴジュアッグッ!」 紗耶「アンタはやっぱり、こういう起こし方じゃないと駄目みたいね」 夏輝「・・・・・・こほっ! なんか紗耶さんったら、妙に殺気だってないかい?」 紗耶「可愛い子と約束してる癖に、寝坊ぶちかましてる男に天誅よ」 ぐりぐりぐり、紗耶は横向きに寝転んでる俺の腰を脚で転がしている。 ……ちょっと、気持ちいい。 腕を組み、見下した氷のような冷たい視線・・・・・・。 あぁ! 女王さまっ! ;SE:衝撃音 紗耶「気持ち悪い目してたわよ、アンタ」 夏輝「ちょっと自分を和ませようと、心の中で遊んでみただけ」 紗耶から逃げるように、窓辺に四つんばいで近づき、外にいるももに声をかける。 夏輝「わりぃ! 寝坊した!」 夏輝「すぐ準備するから、ちょい待ってろ!」 もも「もぅ! 後でアイス奢ってもらうからねー!」 夏輝「おーう!」 洗いたてのジーパンとTシャツを服の小山からひっぱりだす。 夏輝「俺着替えるから、部屋でてろよ」 紗耶「わかってるわよ!」 夏輝「あ、アイス! 帰りにお前の分も買ってくるけど、何がいい?」 紗耶「……」 紗耶「……ブラックモンブランを一年分。アンタの奢りで」 夏輝「それ多分、この島の店のアイスじゃ足りない」 一年分といえば、365本なんだろうか。 本気で言っているようには見えないが、なんとか俺に意地悪をしたい様子。 ももを待たせた事に対してここまで怒るとは、紗耶は本当に几帳面なのだろう。 俺に対しては、常に強制なので今まで気付かなかったけど。 素早く着替えて朝食を胃の中へ流し込む。 もう少し味わっていたかったが、あまりももを待たせるのも悪い。 夏輝「ご馳走さまでした!今朝もほんっとーに旨かった!」 早食いをした申し訳なさと、それでも口内に広がる味の良さに満足し、紗耶への労いの言葉を残す。 紗耶「お粗末様でしたー」 夏輝「いってきまーす!」 紗耶「……いってくればいいじゃない」 ;背景:海 もも「お兄ちゃんも泳げばいいのにー」 夏輝「お盆を過ぎた海はクラゲが多いからヤダー」 もも「クラゲの少ないとこ泳げばいいのにな」 ももは少し深い所で泳ぎながら、器用に水面から顔だけを除かせ話しかけてくる。 夏輝「そんな事より本題だ。昔の俺との思い出って何かない?」 もも「誤魔化したー」 夏輝「誤魔化してない」 泳ぐのをやめ、俺の近くに寄ってきて、ぱちゃぱちゃと足だけ水につけるもも。 跳ねる水しぶきを眩しそうに目を細めてみている。 もも「んー、やっぱり海での事ばっかりだなー」 もも「泳げなかったお兄ちゃんに、泳ぎ方教えてあげたり」 もも「まずはサンマの気持ちになってー!」 もも「って、言ったら、ももの水泳教室失敗って言われたんだよー」 夏輝「もう少し、俺がカッコいい思い出とかないのか?」 もも「えー? そんなのあるかなあ?」 夏輝「そこを何とか!」 もも「作り話は得意じゃないんだ」 なんだか年下にからかわれるのは恥ずかしいというより、悲しいな。 夏輝「ん?」 夏輝「……あれ? でも俺、溺れた紗耶を助けたというカッコいい伝説残してたはず」 漁師のオッサンに聞いた話をふと思い出した。 オッサン「あそこで泳いでて、いきなり溺れちまった紗耶ちゃんを助けたのって確かお前だぞ?」 埠頭の方を眺める。 波が時折打ち寄せ、白波が生まれては消えている。 オッサン「勿体無ぇなぁ……それをネタにしちまえば紗耶ちゃんだってグラングランくるのになぁ」 … ……ちょっと卑怯な気がするけど、オッサンの言ってた事も一理あるよな。 それに、思い出すきっかけは、今のところこれしか無い訳で。 夏輝「なぁ、紗耶が溺れた時の事、ももは覚えてる?」 もも「うーん、聞いた事はあるけど、詳しくは……」 もも「お姉ちゃんの方がよく覚えてるんじゃないかなー。ボク小さかったし」 夏輝「そうだな、後であやめ姉に聞いてみるか」 もも「あとで、お姉ちゃんに頼んどいてあげるよ」 夏輝「ありがとう」 もも「じゃ、お昼になる前にアイス食べたいなー」 夏輝「しっかり覚えてたか」 もも「えへへ。当たり前じゃん」 ;背景:商店街 夏輝「好きなの選んでいいぞ」 もも「じゃあ、ガリガリくん」 もも「梨味だって。微妙だね」 夏輝「そういう会話は店を出てからにしてくれ。気まずい」 おばちゃんがちらりとこちらを覗き見る。 夏輝「俺はダブルソーダ。これ折って食べると、二本食べた気になれるお得感がいいんだよ」 もも「お兄ちゃんって、貧乏性なんだね」 夏輝「貧乏性なんじゃない、貧乏なんだ」 もも「奢ろうか?」 夏輝「な、情けは無用だい」 あとは紗耶の分か。 その時、数あるアイスの奥底、霜に埋もれてしまいそうな商品が目に入った。 ドラキュラアイス ……こ、これは。 食べているうちに口内が真っ赤にそまり、まるでドラキュラのようになるという伝説のアイス。 懐かしいな。まだあったんだ。 買いたいが、味が良かった記憶はない。 紗耶にはこれを買っていくか。 ……脳裏をよぎったのは、ドラキュラのような真っ赤な口をした紗耶。 絵的にホラーで、その後はきっとバイオレンス。 夏輝「お前に決めた!」 力強く俺はブラックモンブランを手にとった。 俺のチキン野郎……。 紗耶の分と合わせて、合計三本を購入。 アレは製造年月日を見るのもこわいしな。 夏輝「じゃ、またあとでな」 もも「アイスありがとね、じゃあね」 元気に手を振るももを見送り、昼飯のメニューを予想しながら叙瑠樹へ向かった。 ;背景:叙瑠樹居間 昼食は素麺と天ぷらと刺身。 毎日が料亭での食事のようですな。揚げ茄子ウマー。 先に食べ終わっていた紗耶は、デザートにブラックモンブランを食べながらテレビを眺めている。 ;SE:電話 ;SE:歩く音 ;SE:受話器を取る音 紗耶「はい、もしもし」 紗耶「ええ、今食べ終わる頃。……うん、うん。ちょっと待ってて」 紗耶「夏輝ー! あやめさんから電話ー!」 夏輝「おう」 受話器を受け取る。 ぎりぎりぎりぎりぎりぎり。 その際、紗耶の指先が俺のわき腹の肉を引きちぎらんばかりに捻り上げた。 夏輝「はんまはんまぁ〜」 痛みに俺涙目。 あやめ「何泣きながら宇宙へとんでるの?」 あやめ姉、何故わかる? 涙をぬぐいながら、受話器を握りなおす。 夏輝「あ、いや、気にしないで」 あやめ「ふふ、その話も午後これから、ウチで聞こうかしらね」 夏輝「あやめ姉のうち?」 あやめ「そうよ、ももから話はきいたんだけど、午後は家事もあるから外には出る予定ないの」 あやめ「おやつでも食べながら話を聞くわよ、紗耶ちゃんも呼んだら?」 夏輝「あ、いやぁ、アイツはその……」 あやめ「ん? 紗耶ちゃんいると都合悪い話なんだ」 あやめ姉は本当に大人だな。察しがいい。 夏輝「ええ、はい。んじゃ、俺これからそっちに向かいます」 ;SE:受話器切る音 用件が終わり電話を切ると、紗耶が居間の襖の陰から様子を伺っている。 仲間にしますか? ;SE:ぴっ(ゲーム音) 「いいえ」 まだ条件を満たしてないからな。 紗耶「今度はあやめさんと約束?」 夏輝「あぁ、夕方くらいには帰ってくる。遅くなるようなら、先に飯食ってていいぞ」 紗耶「いってらっしゃい」 夏輝「いってきます」 あやめ姉の家での『過去』という収穫物を早く手にしたくて、叙瑠樹を出ると全力疾走…… ではなく、少しペースを保って走り、目的地へと出発した。 紗耶「アンタの分まで夕飯食べちゃうかもしれないけどねっ!」 紗耶「なによ、もう、べーっだ!」 ;背景:常葉邸 からん、グラスに注がれた紅茶の中の氷が音を立てる。 あやめ「記憶探し?」 夏輝「うん、あまりにも島にいた時の事を覚えてないからさ」 あやめ「それで思い出話を集めてると」 あやめ「なら、紗耶ちゃんも一緒に懐かしい話でもすればいいのに」 夏輝「いやぁ、HAHAHAHAHA」 あやめ「ふーん、意味深」 疑いの眼差し。 あやめ「ふふふ」 などと含み笑いをされてしまうと、隠し事しながら相談にきている事を、少し咎められた気分になる。 あやめ「事故の時の事、何も覚えていないんだよね」 あやめ「丁度この時期だったかしら、私は助けられた後の夏輝と紗耶ちゃんしかみていないんだけど」 あやめ「あれは本当に痛々しかったな。真っ青になった夏輝に泣きすがる紗耶ちゃん」 夏輝「え? あの紗耶が?」 あやめ「そうよ。凄く印象的だったわ。びっしょり濡れたワンピース姿の紗耶ちゃんが」 想像もつかない。あの紗耶が泣きすがった?  夏輝「はは、あやめ姉の覚え違いじゃ? しかも紗耶がワンピースだなんて」 あやめ「間違いないわよ、私も珍しく可愛い格好だったから余計に印象に残ったんだもの」 あやめ「夏輝が心臓マッサージや人工呼吸されてる間も、紗耶ちゃん全く手を離そうとしなくてね」 あやめ「泣いて泣いて泣きすぎて、それで過呼吸起こして気絶しても、手を離さなかったのよ」 夏輝「そっかぁ」 あやめ「無事だったから。今じゃ、漁師のおじさん達の酒の肴になってるわよ」 それは納得。海で会ったオッサンも楽しそうに話していたからな。 あやめ「でも紗耶ちゃんの前じゃ、今でも事故の事は禁句になってるのよ」 夏輝「どうして?」 あやめ「まだ幼かったからね、辛い記憶でしかないでしょ? 当時禁句になったその名残」 あやめ「しかも、その後すぐに夏輝は本土に引越しが決まったんだもの」 あやめ「結びつけて考えちゃったら……ね」 あやめ姉の言う事は理解出来た。 幼かった俺達の心も、この島の人は守ってくれていたのだ。 だが、俺の中には初めて知る新事実があった。 事故の後に本土への引越しが決まった? …… この島の事は何も覚えていなかった。 記憶を遡って思い出しても、本土の病院で過ごした日々。 いつも色んな検査をして、いつも手元に絵日記を抱えていた俺。 毎日、毎日、絵日記を描いていた。 毎日、毎日、その絵日記を 「新しい絵本を読むような気持ち」 で読んでいた俺。 もしかして、入退院を繰り返すようになったきっかけって…… いかん。 これはパンドラの箱だ。 今でも紗耶に禁句とされている事故の話は、とても収穫物として紗耶に語れない。 その後、最後に希望が出てくるかどうかも怪しいもんだ。 もっと楽しい思い出にしよう。 キャンプの夜に紗耶が話していたような、きらきらした思い出がもっとあるはずだ。 ;背景:叙瑠樹居間 本日のメニューは、カボチャの煮物、イカときゅうりと絹さやのサラダ、ポークピカタ、大根と油揚げの味噌汁。 大変美味しゅうございます。 まるで家庭料理の楽園郷やー! 夏輝「もう少し食おうかな。今日は腹へってさ」 あやめ姉の家で聞いた話は、紗耶への手土産にはならなかったが、紗耶が俺を想って泣いてくれた事だとか、今後の過去探しへのモチベーションをあげるには充分すぎる物だった。 たぶん、過去の俺も、紗耶が好きだったのだろう。 恋だとか意識するような年齢ではなかったはずだが、命を懸けて海へ助けに飛び込んだ事実から予測出来る。 明日からも俺の過去を探そう。俺と紗耶の未来の為に! 夏輝「おかわり」 紗耶「……」 渡された茶碗に、ぽんぽんとご飯を山盛りにする紗耶。 紗耶「どうぞ。ずいぶん疲れてるみたいね」 夏輝「あぁ、まあね。」 夏輝「でも、バテてる場合じゃないよなー、残り少ない夏休みを充実させないとな!」 紗耶「充実ねぇ……」 紗耶の方は随分テンションが低いようだが、お姫様はのんびり待っていていいのだ。 明日は何からしようか、もう少し聞き込みをしようか? それとも、色んな場所をみてこようか? やりたい事が多すぎて、顔がゆるんでしまう。 今日は早く寝よう、明日めいいっぱい動く為に。 まってろよ、紗耶。 必ずいい返事もらうからな。 [END]