気が付けば、人の数もまばらになりつつある。

あやめ 「そろそろ、時間ね」

夏輝 「へ? 何が?」

もも 「やだなぁ。花火だよ花火」

ああ、そんなことも言ってたっけか。

どうせ、こんな小さな島での花火など、タカがしれ(以下略

紗耶 「どうせ、こんな島の花火なんてタカが知れてると思ってるでしょ」

夏輝 「だからお前は人の心を読まないでくれ」

もも 「ふふーん。腰抜かしても、知らないわよ?」

夏輝 「ハっ。誰が腰なんて」

あやめ 「ここからだとちょっと見づらいから、見晴らしのいい場所へ行かない?」

もも 「さんせー!」

紗耶 「早く行かないと、いい場所取られちゃうわよ」

夏輝 「どっか、穴場ないか?」

もも 「砂浜はどう? 花火を間近で見られるよ?」

夏輝 「お。いいね」

紗耶 「どこがいいのよ。花火の真下じゃない。首が疲れちゃうわよ」

あやめ 「っていうか、危険すぎて立ち入り禁止よ」

夏輝 「そうなんだ」

もも 「ぶーぶー」

あやめ 「文句言わないの。ちょっと上へ行けば、見晴らしのいい場所は沢山あるわ」

紗耶 「そうね。とりあえず、移動しましょ」

夏輝 「歩くのかよ」

紗耶 「嫌なら、置いていくだけよ?」

夏輝 「サーセン」

時間経過
場所:丘の上

あやめ 「ここなんて、どうかしら?」

紗耶 「いいですね。人もあんまり居ないし」

もも 「うん。ここがいいよ」

あやめ 「じゃ、そこのベンチに座りましょう」

夏輝 「じゃ、ジュースでも買ってくるわ」

登ってくるので喉が渇いたっちゅーの。

紗耶 「私、炭酸飲料ね」

もも 「ボク、フルーツ系のやつ」

夏輝 「はいはい」

あやめ 「私、コーヒーがいいわ。甘くないやつ」

夏輝 「いくらでもパシりますよ」

紗耶 「じゃ、アンタのおごりで」

夏輝 「マジで?」

紗耶 「ほらほら。早くしないと始まっちゃうわよ?」

夏輝 「くそ……覚えてろ」

時間経過

夏輝 「はいよ」

もも 「わーい。ありがとー」

紗耶 「ご苦労である」

夏輝 「紗耶様のお飲み物は、懐にて温めておきました」

紗耶 「ざけんなっ」

夏輝 「嘘だよ。かわりに思いっきり振っといた」

紗耶 「ふーん」

あやめ 「じゃ、これ、私とももの分ね」

夏輝 「あ、お金はいいよ。奢りで」

あやめ 「そう? 悪いわね。今度、何かで奢らせてもらうわ」

夏輝 「うん」

紗耶 「あやめさんには、優しいのね」

夏輝 「そりゃ、お前みたいなのとは全然違いますから」

紗耶 「ふーん」

しゃかしゃかしゃかしゃか。

夏輝 「……何をしている?」

紗耶 「これ、何だと思う?」

夏輝 「……が、画鋲?」

紗耶 「正解。これをどうすると思う?」

夏輝 「……ワカリマセン」

紗耶 「こうして」

ぷちっ

俺の買ってきたコーラの缶の蓋に、画鋲を刺す。

ぶしゅーーーーーーーーーーーーーっ

夏輝 「ぐおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

コーラの缶の小さな穴から、思いっきり膨張したコーラが勢いよく噴き出す!

夏輝 「目が……目がぁぁぁぁっ!」

あやめ 「滅びの呪文でも唱えられた?」

夏輝 「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお」

紗耶 「天罰よ」

夏輝 「すごく……人災です……」

もも 「あ!」

唐突に、ももが空を指差して叫ぶ。

ひゅるるるる……

あやめ 「始まったわね」

空に小さく舞い上がった火の玉は、ちょうど、俺たちの目線のあたりで静かに消えた。

そして、次の瞬間。

夜空に、一輪の大花が咲いた。

一泊の呼吸も置かず、威圧するかのような衝撃と音。

そして、夜空を飾った大きな花は、静かに夜空の静寂に戻った。

それは、俺の予想をはるかに超えた大きさだった。

もも 「また来たー!」

ももの声と共に、今度は二つ、小さな火の玉が舞い上がる。

そして、やはり俺たちの目線のあたりで、静かに消える。

次に来るのは――大きな花、二つ。

赤と、緑。

そして、空気を振るわせる音と衝撃も、ふたつ。

赤いほうは、黄色へ。

緑のほうは、青色へ。

光と色を変化させながら、消えていく。

夏輝 「――」

まさに、声が出ない。

言葉を失うとは、このことか。

少し時間を置いて、今度は4つ。

色とりどりの大きな花が視界を埋め、そして消えていく。

これほどとは。

紗耶 「どう?」

夏輝 「……す、少しも凄くないんだから」

紗耶 「その割には、魅入ってるみたいだけど?」

夏輝 「う、うるさい」

もも 「たーまやーっ」

あやめ 「かーぎやーっ」

夏輝 「すげーな」

紗耶 「ふふ。やっと本心が出たわね」

あやめ 「噂によると、島の税金のほとんどを、この花火に使ってるとかいう話よ」

夏輝 「マジで」

紗耶 「噂よ噂」

あやめ 「でも、毎年のことながら、そういう噂がでてもおかしくないほど盛大よね」

もも 「そうだねー」

繰り返される、色と音の見事な乱舞。

本土ではいつも遠くから見る花火だけど、こうやって間近で見るのも、悪くないな。

あやめ 「手持ちの花火もいいけど、やっぱり花火ってこうでなくちゃ」

もも 「あ、あとでボクたちも花火やろうよ!」

夏輝 「冗談だろ。この花火見たあとで?」

紗耶 「いいかも」

あやめ 「そうね。私たちだけで、お祭りの締めくくりやる?」

もも 「やるやるー!」

夏輝 「おーい……」

俺としては、この感動の余韻を、少しでも長く持っていたいわけだが。

紗耶 「花火、まだ売ってるかな?」

もも 「あ、ボクんちにまだあるよ!」

あやめ 「そうね。ウチでやりましょう」

もも 「さんせー!」

夏輝 「少数派は無視ですか?」

紗耶 「多数派にかき消されるのが民主主義よ」

夏輝 「まぁ……いいか」

皆で、花火やるのも悪くはないか。

……この花火が終わったら、あとは島を出るのを待つだけ。

もう少し。

ほんの少しでも、まだこの島に居たいと思う俺がいる。

それだけ、今年の夏は刺激が多い。

この夏休みが、終わって欲しくない。

そう思う。