僕と君の夏休み
紗耶シナリオ01:「働かざる者(以下略」
rev 2

背景黒

夏輝 「……」

SEゴトゴト

夏輝 「よっ……」

背景居間

夏輝 「こらせ、と、と」

何故に俺が布団運びなんぞ。

背景階段

朝飯の時、ブツブツ言いながらキョロキョロしてる紗耶の様子から、何かあるなとは思っていたが。

さっさと逃げ出せば良いものを、のんびりお茶などすすってたせいでこの体たらく……俺とした事が不覚。

背景部屋

夏輝 「持って来たぞ」

紗耶 「はいはい、ご苦労様。ここに積んでいって」

SE

夏輝 「ぃよっ……って、コレだけじゃないの?」

紗耶 「全部よ」

今まさに俺が運んできた布団のカバーを外しながら事も無げな暴言。まずは確認せねば。

夏輝 「えっと、一階のを?」

紗耶 「全館」

紗耶 「あ、布団部屋のは冬のだから持ってこないでね」

おい。

夏輝 「聞いてねぇ! 聞いてねぇぞ!」

紗耶 「今言ったわよ?」

何という紗耶ルール。

夏輝 「作業前の説明と俺の意思を忘れずにっ!」

紗耶 「ふっ……」

紗耶 「働かざる者、食うべからず」

びしっ。紗耶の人差し指は、刺さりそうな勢いで俺をロックオン。

夏輝 「な、な、な」

紗耶 「タダ飯喰らいな上に、の、の、覗き魔だなんて……」

ぐっ、痛いトコを。つか、言うのも恥ずかしいなら蒸し返すなよ。

夏輝 「あの、それは和解済みで──」

紗耶 「アンタはそんな奴じゃないわよね?」

紗耶 「ねぇ、夏輝?」

夏輝 「そりゃあ、そ、そうですとも」

紗耶 「じゃ、よろしく。はぁ、忙しい忙しい」

くそっ。

背景階段
SEパタン

何がくそって、最後のニッコリが頭にくる〜〜〜〜っ!

まぁ、やるさ、やりますともさ。

時間経過

夏輝 「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ」

夏輝 「お、終わったぞ」

紗耶 「ご苦労様。さすが男の子、早い早い、助かっちゃった」

その男の子を使役するアナタはもっとすごいですね。

紗耶 「じゃ、カバーかけてって」

夏輝 「はいはい。で、お前は何を?」

紗耶 「ん? これ」

針と糸ですね。

紗耶 「外れないように縫いつけとくの。起きた時に外しちゃうお客様も居るからね」

夏輝 「どうせ毎回換えるもんだし、別にいいんじゃない?」

紗耶 「……」

ノーコメントね。わかったよ、うん。

時間経過

夏輝 「終わったな。じゃ、俺はそろそろ……」

紗耶 「まだよ。次はあれ」

吉野杉箸と書かれた、25インチTVよりまだ大きい段ボール箱。

夏輝 「んで?」

紗耶 「コレに入れる」

ごっそりと束になってるそれは、『叙瑠樹』とプリントされた箸袋。生意気にオリジナルかよ。

ちなみに俺達が普段使っているのは、既に割られた状態の箸。リサイクル万歳。

夏輝 「なんつームダなものを」

紗耶 「馬鹿に出来ないのよこれが。記念やコレクションにって喜んで持って帰ってくれるでしょ?」

何のために? マニアックな怪人のために?

紗耶 「で、それ見てまた予約してくださいねって事」

夏輝 「はー、なるほど。それで電話番号と住所が書いてあるわけね」

親父が持って帰ってくるマッチやライターみたいなものか。

紗耶 「そういうこと。説明終わり、よろしく」

時間経過

割り箸の袋の口を開ける。箸を入れる。閉じる。

割り箸の袋の口を開ける。箸を入れる。閉じる。

割り箸の袋の口を開け──

紗耶 「そうそう、上手い上手い。手は覚えてるみたいね」

夏輝 「そうなのかな…って、これっくらい誰でも出来るだろが」

夏輝 「もうさ、百円ショップのでいいんじゃね?」

紗耶 「意味あるって言ったでしょ?」

夏輝 「ココの主な利用客は?」

紗耶 「漁協や自治会の忘年会とか、大漁の時の宴会」

夏輝 「ほらぁ」

おまけに、漁協と自治会の面子って絶対大差ないだろ。

紗耶 「文句多いわね。昔はあんなに夢中でやってたのに」

マゾか俺は。

で、針仕事を終えた紗耶はと言うと。

大きな紙を折り畳んで、ざくざくと包丁を使って小さな四角形に切り分けている。

夏輝 「包丁使うかJK」

紗耶 「刃渡りが長いからカッターより便利なのよ。研げばまた切れるし」

夏輝 「研げるの?」

紗耶 「研げないの?」

普通の人は研げません。

夏輝 「あれか? 客を泊めたら夜中にしゃーこ、しゃーこって」

紗耶 「そうそう。で、お客様が起きてきたら『ひひひひ』って笑うの」

夏輝 「おお。すげぇ」

紗耶 「何が?」

夏輝 「上手い。まるっきり妖怪のばーさんみたいだった」

紗耶 「……」

夏輝 「嘘です」

ホント、まるっきり妖(ry

夏輝 「んで、結局それは何?」

紗耶 「フロントで売ってるキーホルダーとかを包む包装紙」

フロント? あぁ、あのちっこいカウンターか。

夏輝 「はぁ? そんなに沢山いらねーだろ、いったい何年分だよ」

紗耶 「うっさいわね」

時間経過

夏輝 「……」

ざくざく。

割り箸の袋の口を開ける。箸を入れる。閉じる。

ざくざく。

割り箸の袋の口を開ける。箸を入れる。閉じる。

ざくざく。

割り箸の袋の口を開ける。箸を入れる。閉じる。

……。

飽きた。

紗耶 「……」

にらむな。

黙々と作業を続ける俺達。

はー、百はやったかな。山になった割り箸を眺める。

紗耶 「夏輝ってさぁ…」

夏輝 「んぁ?」

紗耶 「彼女いないよね」

夏輝 「何ですと?」

紗耶 「……」

ざくざく。紗耶は答えない。

はいはい、質問に質問で返すな、ってヤツね。

んじゃま、ここはあえてお約束で。

夏輝 「気になる?」

にやーり。ラテンな笑顔を進呈。

紗耶 「バ、バカ言わないでよ、な、なななななななんでアンタなんかを……っ!」

夏輝 「気になるんですね?」

そして紗耶は、何だか甘酸っぱいふいんき(何故か変換できない)に……て、あれ?

――ざくざく。

――ざくざく。

――ざくざく。

夏輝 「あの、サヤ、サン?」

――ざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくざくぐふざくざくざくざくざくざくざくざく

紗耶 「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

エフェクト ズバッ

夏輝 「のわっ!」

エフェクト ズバッ! ズバッ! ズバッ!

夏輝 「ちょ、危なっ! 包丁! ロックオンしてる、ロックオン!」

エフェクト ズダン!びよよよーん。

紗耶 「フッ、フーッ、フーッ!」

猫かよ。

夏輝 「彼女いねーよ。ネタにネタで返しただけだろ、冗談通じねー女かお前はよぉ」

紗耶 「ふんっ、わ、悪かったわよ」

夏輝 「誠意が見られませんな」

ぎろっ。

夏輝 「わかった、わかったからっ! 包丁おろせ、な?」

紗耶 「……ふーっ」

俺『を』からかうのはアリで、俺『が』からかうのはなしってか?

理不尽だ。ホント、色々理不尽だよ。

紗耶 「彼女、居ないんだ」

夏輝 「まぁな。そういうお前も居ないだろ」

紗耶 「そうよ、悪い?」

夏輝 「その乱暴さじゃなぁ」

紗耶 「どうやら死にたいようね」

夏輝 「わ、またかっ!」

紗耶 「うふ、うふふふふふ」

夏輝 「ちょ、よせ! やめ、薄ら笑い恐ぇーっての!」

時間経過

夏輝 「おい」

紗耶 「なによ?」

夏輝 「こんなの今日中に終わらねーぞ」

紗耶 「いいよ、出来るとこまでで」

夏輝 「先に言え」

紗耶 「今言った」

……わかったよ、もう。

紗耶 「じゃ、これくらいにしてお茶にしよっか」

ほっ。

背景 叙瑠樹居間

夏輝 「はー、やれやれ」

コーヒーブレイク。夏だし、もちろんアイスですよ?

どれ、テレビでも──

紗耶 「さ、仕上げに掃除するわよ?」

夏輝 「え? ま、まだ10分しか経ってない……」

紗耶 「十分じゃない、ほらほらほら」

夏輝 「シャレのつもりか? わかんねぇっての!」

夏輝 「オーバーワークだ! 適正な休息を要求するっ!」

紗耶 「却下」

夏輝 「横暴だっ!」

描写の目的が無い無駄シーンだ、ライターの姑息な行数稼ぎに断固抗議すr

夏輝 「首根っこ引っ張るな、俺は犬猫じゃねぇっ!」

紗耶 「せめて、猫の手程度には働きなさい」

夏輝 「ひどっ!」

紗耶 「さぁ立つ! 3、2、1、はい!」

夏輝 「うわあああああああんっ!」

背景 叙瑠樹居間

……。

アナログにもほどがある。

夏輝 「何でホウキ」

紗耶 「これの方が畳が傷まないのよ」

夏輝 「ふーん、とりあえず納得」

紗耶 「判ったらキリキリ働く」

まず、畳の列に沿って平行に二人並ぶ。

紗耶が先行し、掃き送った埃を追うように俺が掃く。

はしっこ到着。次の列に移動。

……。

はしっこ到着。次の列に移動。

……。

飽きた。なのにまだ半分も終わってないし。

先行する紗耶は、当然俺に背を向けている状態。

紗耶の意外に華奢な肩(とケツ)を眺める。

ふ。わかるぞ、お前が背中で求めているものが。

エフェクト キラッ☆

夏輝 「スキありっ!」

紗耶 「甘いッ!」

SEスパーン!

夏輝 「いってええええええええええええっ!!」

紗耶 「進歩無いわねぇ。仕掛けてくるタイミングがまるっきり昔と一緒」

知るかっての。

ふにふに笑いしやがって。得意ですか、あーそーですか。

夏輝 「くそっ」

このドSが。ホント、楽しそうに痛めつけてくれやがりますね。

……実質最近知り合ったも同然の間柄(俺視点)でホウキで斬りかかってく俺ってのも、まぁ、大概アレな訳だが。

紗耶 「何よ?」

夏輝 「ちっ、何でもねぇよ」

これだからな。斬りかかるのは当然の流れって気がするじゃん?

紗耶 「何か、懐かしいね」

夏輝 「ソウデモナイヨ?」

紗耶 「ほんと、懐かしいなぁ」

聞いてませんか、そうですか。

強引だわ、乱暴だわ、人の話聞かないわ、ほんっと訳がわからん奴だよなぁ。

背景叙瑠樹昼

掃除が終わった後、紗耶はねぎらいの言葉を添えて俺の手のひらにアメをのせた。

……おい。