僕と君の夏休み
紗耶シナリオ05:「SKILL」
rev 2
背景 部屋
紗耶 「……」
夏輝 「んごーっ、すぴゅるるるるる」
エフェクト ズドッ
夏輝 「ゥビグザムッ!」
紗耶 「起きなさい」
夏輝 「うぇほっ、げほっ、ごほっ!」
夏輝 「普通に起こせよ、普通にっ! お願いだから!」
紗耶 「……」
こらまた今朝は一段と。
紗耶 「起こしたわよ」
不機嫌ですな。なんか無表情だし。
夏輝 「わーったよ」
夏輝 「飯だろ。すぐいく」
すたすたすた。
無言すか。まぁいいけど。
……俺、なんか、やらかした?
背景 居間
朝食の内容はいつも通──
夏輝 「味噌汁、辛くね?」
紗耶は食ってないし。何の嫌がらせだ?
紗耶 「……今日は屋根修理よ」
またはじまったよ、紗耶の一方通行。
ホント、最強だよアンタ。
夏輝 「あーはいはい、仰せの通りに」
紗耶 「午前中に終わらせないと暑くてやってられないから」
夏輝 「そりゃま、そうだわな」
今日も朝から快晴だしな。暑くなりそうだ。
っていうかこれは、ご機嫌斜めというよりは……。
夏輝 「お前、大丈夫か?」
紗耶 「何が」
夏輝 「顔色。なんか青いぞ? 風邪か?」
良く見たら目の焦点合ってないし、メチャクチャ辛そう?
紗耶 「……ちょっと熱っぽいだけよ」
夏輝 「おいおい、マジかよ?」
紗耶 「これ位なら、仕事してるうちに治るから」
夏輝 「そうなのか?」
紗耶 「平気。大したこと無い」
夏輝 「あー、そういうこと」
紗耶 「?」
夏輝 「アレなんだな。紗耶って重い人なんだネ」
紗耶 「違うわよっ!」
夏輝 「うおっ!」
背景 黒
紗耶が右手を大きくテイクバック。
衝撃に備えて歯を食いしばり目を閉じる。
夏輝 「…………」
夏輝 「あれ?」
背景 居間
夏輝 「どうした、紗耶?」
紗耶 「……っ」
夏輝 「お、おい、大丈夫か、紗耶?」
床に手を着いてしゃがみこんでいる。
紗耶 「だ、だいじょ……ぶ」
とうとうへたりこんでしまった。
夏輝 「ちょ、しっかりしろ!」
駆け寄って肩に手を──
夏輝 「うわ、すっごい熱っ!」
慌てて紗耶の額に手を当てる。
おい、そのうち治るなんてレベルじゃねぇぞ!
夏輝 「何やってんだよ、お前っ!」
紗耶 「……」
ど、どどどどどどうしよう。
落ち着け、まずは落ち着こう俺。
夏輝 「そう、医者! 医者居るのか、この島?」
紗耶 「……あー、お祭りまでお休みのはず」
夏輝 「叩き起こしてくるっ!」
紗耶 「……本土だから無理」
夏輝 「なんじゃそりゃあああっ!?」
くそっ、ほぼ無医村かよ!
あわわわわわ、ちょっと、さっきより元気なくなってないか?
夏輝 「紗耶っ!」
紗耶 「……そんな大げさにしなくても大丈夫だから」
夏輝 「本当に?」
紗耶 「うん」
とは言ってもなぁ。どうする俺?
そうだ、とにかく寝かさないと。
そうなれば、やることは一つ。
夏輝 「よいしょっ!」
紗耶 「ひゃっ!」
紗耶 「ちょっ、何──」
何って、おひめさまだっこだよ!
夏輝 「いいから!」
えーと、えっと、そう! 布団だ!
背景 廊下
SE ダダダダダ
夏輝 「うお〜〜〜〜っ!」
紗耶 「〜〜〜〜〜〜っ!」
背景 階段
SE ダダダダダ
夏輝 「うお〜〜〜〜っ!」
紗耶 「〜〜〜〜〜〜っ!」
背景 部屋
紗耶 「……なんでアンタの布団なのよ」
夏輝 「あ、すまん。紗耶の部屋に入るのなんか抵抗あったし」
なにしろ、部屋の前にさえ通ったこと無いからな。
そもそも、どこにあるかさえ謎じゃんね。
紗耶 「まったく──」
夏輝 「こら、起きるな。細かいこと気にせずに寝てろ、な?」
紗耶 「これじゃ、着替えられないじゃない」
夏輝 「あーもう、とりあえず俺のパジャマ使え。ほら、洗ってある方」
洗濯したのは紗耶だけどな。
紗耶 「……」
夏輝 「氷枕と体温計取ってくるから、それまでに着替えてろ。いいな?」
紗耶 「……わかったわよ」
夏輝 「おう。じゃ、まってろ」
背景 階段
まさに鬼の霍乱。ただの風邪っぽいけど、あいつでも病気になるんだな。
びっくり、びっくり。
背景 居間
で、体温計はどこだ?
あと、氷枕も。
背景 部屋
ようやく氷枕と体温計を探し当てて戻ってきたわけだが。
夏輝 「よしよし、ちゃんと着替えてるな」
紗耶 「……」
しっかし……男物のパジャマ着てる女って、不思議と胸にくるものがあるな。
まったく、紗耶の癖に生意気だ。
──映像でお見せできなくて非常に残念だ、うん。
夏輝 「ほれ、胸あけろ」
紗耶 「!」
夏輝 「ち、ちがうぞ! 体温はかるんだよ、た・い・お・ん!」
そんな目で俺を見るな。
紗耶 「わきじゃない」
夏輝 「なんだ、違うのか。じゃあケツを──」
SE どすっ
夏輝 「うごはっ!」
紗耶 「はーっ、ふーっ、はーっ」
SE どさっ
紗耶 「きゅう」
俺にボディを喰らわせた姿勢のまま布団に崩れ落ちる紗耶。
ったく、そんなに辛いなら暴れるなよ。
紗耶 「……ふんっ」
俺の手から体温計を奪い取ると、おもむろに口にぱくり。
夏輝 「あー、そっちなのね」
じろっ。
夏輝 「やれやれ」
体温計くわえて見上げられても恐くないもんね。熱で涙目だし。
むしろ可愛──
え?
夏輝 「俺は今……何を考えた?」
紗耶 「?」
夏輝 「いいんだ、気にするな。むしろ、お願い聞かないで」
紗耶 「ふひゅーっ」
体温計くわえながらため息とか、器用な奴。
SE ピーッ、ピーッ、ピーッ
ん、測れたみたいだな。
夏輝 「ほれ、よこせ」
紗耶 「ん」
紗耶から体温計を受け取る。
夏輝 「どれどれ。……38度7分、とな?」
紗耶 「……」
夏輝 「お前さぁ」
紗耶 「……(ふいっ)」
紗耶をにらむ。紗耶の視線はあさっての方へ。
夏輝 「こんなに熱あるんなら、いつも通りにとか無理しようとすんな」
紗耶 「……だって」
夏輝 「だってじゃない。一人で留守番してるんじゃないんだからさ」
そう、こういう時の為に俺が来てるんじゃないか?
夏輝 「ともかく」
夏輝 「熱下がるまで寝てろ。いいな?」
紗耶 「……ん」
夏輝 「よし」
うぉ、思わずいい子いい子しそうになったぜ。
殺されちまうっての。
背景 居間
夏輝 「さて、と」
これから鋭意看病を行うわけだが。
自慢じゃないが、実は俺ってけっこう入院歴がある。
つまり。
SE キュピーン
夏輝 「看護のプロの仕事を俺はこの目で見まくっているっ!」
イコール、俺、すごい。
まさにこの危急存亡の秋(とき)、俺の経験が活かされる訳だ。
夏輝 「よし!」
夏輝 「紗耶、俺がきっちり引導……いやいやいや、看病してやるからなっ!」
そう、それが今、俺に与えられた使命。
イッツ、マイ、レゾンデートル!
あれ、何かヘン? まぁいいや。
背景 厨房
SE ぐつぐつ
療養の基本は寝る、そして食う。というわけで、おかゆ。
薬も飲まないといけないしな。
夏輝 「美味しんぼも読んでるしバッチリだ」
どれ……そろそろ完成のはず。
夏輝 「何、この洗濯ノリ」
土鍋の中には真っ白なスライムが泡を吹いていた。
すまん紗耶、もう少し待っててくれ。
夏輝 「大丈夫、替えの土鍋なら売るほどある」
民宿だからな。
夏輝 「まだだ、まだ終わらんよ」
がんがれ、超がんがれ俺!
結果を出せ! 漢を見せろ!
……なるべく日が暮れる前に。
背景 部屋
三度にわたるノリ製造を乗り越え、ようやく完成。
……シャレじゃないよ?
半分やさしさで出来ているアレも用意した。
夏輝 「さぁ食え」
紗耶 「……」
夏輝 「どした、んまいぞ?」
たぶん。
紗耶 「……離乳食」
夏輝 「う。でもでも、これは結構成功した方なんだよ」
紗耶 「これで?」
そう言ってくれるなよ。泣けてくるから。
夏輝 「何か腹に入れないと薬飲めないし、ほら」
紗耶 「……今はいい。しんどい」
夏輝 「だめだって、それじゃ治んないから」
しょうがねぇなあ、大サービスだ。
夏輝 「せめて一口。ほら、あーん」
紗耶 「〜〜〜〜〜〜っ」
気持ちはわかるぞ。ぶっちゃけ俺もだ。
だがな。
夏輝 「頼むから食ってくれよう」
紗耶 「イヤ」
夏輝 「だから、そんな恥ずかしがるなって」
俺まで伝染するだろが。
紗耶 「だって」
夏輝 「だが許さん。あーん」
紗耶 「〜〜〜〜〜〜っ、無理」
むぅ。
いかん、ちょっともう耐えられなくなってきた。
夏輝 「わかった。置いとくから、ちゃんと食えよな」
紗耶 「あっ……」
夏輝 「辛いなら一口でもいいからさ」
紗耶 「……」
しゅんとしてるな。そんな気を使うなよ。
夏輝 「で、薬も飲む。な?」
紗耶 「ん」
夏輝 「じゃ、俺ポカリでも買って来るわ」
紗耶 「夏輝」
夏輝 「ん?」
紗耶 「……ありがと」
珍しい。体調のせいでちょっと弱気になってんだなこりゃ。
夏輝 「おぅ、気にすんな」
SE ガラッ
背景 黒
背中を向けたまま、軽く手を振って部屋を出た。
そう。こんな事、どってこと無いんだ。俺達、いつも一緒に過ごして育った幼馴染同士なんだろ?
さて、ちょっくら商店街まで行って来ますかね。
背景 部屋
紗耶 「……あーん」
紗耶 「はぁ。もうちょっと……たらなぁ」
背景 居間
寝ている紗耶の枕元に買ってきた飲み物を届け、氷枕を交換し、今に至る。
飯も食ってたし、まずは一安心。
夏輝 「そして、俺の飯な訳だが」
成功の母という名の白いスライム達。
……これ、食わないとな。
お百姓さんの苦労をムダにはできないのですよ。あと、俺の苦労も。
いわゆるひとつの、MOTTAINAI。
たとえ液状化していても飯は飯。立派なカロリー源じゃないか。
夏輝 「……よし」
ずるずるずるずr──
夏輝 「おぅえーっぷ!」
くっ、こりゃつえー。予想以上の手強さだ。
鳥肌立ったよ、ぞぞぞわって。
よし、漬物混ぜてごまかせば或いは……。
そーれ、ぐるぐるぐるぐる。
夏輝 「では、気を取り直して」
ずるずるずるずr──
夏輝 「おぅいぇーっぷ!」
……切ない。
だめだ、一気に完食は冒険過ぎる。少しづつ食おう。
うぁ。いかん、何か気持ち悪くなってきた。
紗耶のタオル絞り直してから、俺もちょっと寝るか……。
暗転
背景 部屋(夜
紗耶 「……」
紗耶 「もう、夜なんだ」
夏輝 「すぴゅるるるる、すー」
紗耶 「夏輝?」
夏輝 「すぴゅるるるる、すー」
紗耶 「寝てるの?」
紗耶 「……そんなとこで寝てたら、伝染るよ?」
夏輝 「すぴゅるるるる、ふごっ。すかー」
紗耶 「もう」
SE ぺたり
紗耶 「タオル……まだ冷たい」
背景 廊下(夜
紗耶 「アイツ、ご飯何食べたんだろ……」
背景 居間(夜
紗耶 「これ……洗濯ノリ?」
紗耶 「くすっ」
紗耶 「ほんと、しょうがない奴」
紗耶 「夏輝、やさしい、ね…………き……」