僕と君の夏休み
紗耶シナリオ06:「GONG」
rev 2

背景 部屋
SE ピーッ、ピーッ、ピー。

夏輝 「ほれ、よこせ」

紗耶 「ふ」

夏輝 「だからよこせと」

紗耶 「ほっへ」

紗耶 「はいはい」

ひょい。紗耶の口から体温計を抜き取る。

夏輝 「どれどれ……37度2分、と」

いくらか下がりはしたが。

ま、もう一日安静だな。

夏輝 「飯、食えるか?」

紗耶 「(ふるふる)」

む、離乳食だからか。

夏輝 「昨日のよりは頑張ってマシにするぞ?」

紗耶 「(ふるふる)」

夏輝 「単純に食欲がないのか、それとも俺が作る奴が駄目なのか。どっちだ」

紗耶 「……(ふるふる)」

きっと後者だ。100人に聞いて「あるあるあるある」の後に正解になるくらい後者だ。

自信無くなるぜ。

料理の自信なんて最初から無いわけですが。

だが、今日の俺は大人だ。言いたいことはぐっと我慢できるんだ。

夏輝 「しゃーないな。ヨーグルトならいけそうか?」

紗耶 「……(こくん)」

夏輝 「おっけ」

夏輝 「しかし、今朝はえらい素直さんだな。いつもの暴れ馬はどうした?」

紗耶 「むっ!」

SE べたっ

夏輝 「わぷっ!」

ずるーり。俺の顔を濡れタオルがはがれ落ちる。

夏輝 「へへっ。少しは調子出てきたじゃん」

そうそう、紗耶はこうでなくちゃな。

紗耶 「……(ぷいっ)」

夏輝 「んじゃ、待ってな」

背景 階段

よかった、よかった。だいぶ元気になってきたじゃないか。

一時はどうしようと焦ったが。これならもう安心だろう。

あとはきちっと栄養つけて、きちっと休めば、明日には良くなるだろう。

水分補給も忘れちゃいけない。ついでに、ポカリも持ってきておいてやろう。

背景 部屋

紗耶 「こんなときくらい普通に優しくしてくれたって──」

紗耶 「……」

紗耶 「あーっ、もうっ! 何考えてんだか!」

SE ばさっ

紗耶 「夏輝の……ばか」

背景 居間

夏輝 「さて」

夏輝 「ヨーグルトも持って行ったし、次は俺の飯なのだが」

夏輝 「……これか」

昨日のスライム……もとい、おかゆのようなもの達。

敵は多勢である。如何にしてこれを打ち破るか。

夏輝 「ゲル状のおかゆ……」

そのままでは芸がない。

こいつを、ご飯にかけて……

夏輝 「てれれてってれー! おかゆライス〜」

説明しよう! おかゆライスとは、ご飯のうえにおかゆをかけたものである!

カレーライスとはまた一味違う食感が楽しめる一品である!

夏輝 「おかゆ……まだある……」

夏輝 「てれれてってれー! おかゆスープ〜」

説明しよう! おかゆスープとは、おかゆをさらに液体にしたものである!

コンソメスープとはまた一味ry

……

味が欲しいです、お母さん。

時間経過

夏輝 「うーむ……」

自分でやっといて言うのも何だかアレなんだが。

もっと料理スキルをあげておくべきだったか。

夏輝 「……このままでは紗耶を殺しかねん」

あと、俺も。この白い奴のみで生きていくわけにはいかん。

白い……奴?

夏輝 「こいつ……動くぞ!?」

うごかねぇよ。ってか、動いたら泣く。

背景 廊下

夏輝 「はぁーっ、いやはや……」

入院経験と看護スキルが比例しないとは。

夏輝 「俺としたことが、盲点だった」

いやいやいやいや、反省してる場合じゃない。何か手を打たないと。

夏輝 「よし! そうと決まれば……」

SE ジーコロコロコロ…ジーコロコロコロ…

夏輝 「最初からこうしときゃよかったってのは、ま、ナシの方向で頼みます」

背景 部屋

夏輝 「食ったか」

紗耶 「うん」

夏輝 「薬は?」

紗耶 「飲んだ」

タオルを絞って紗耶の額にのせる。

夏輝 「なんか、すまんな」

紗耶 「えっ、何が?」

夏輝 「いや、色々行き届かなくて。飯もあれだし、着替えもほら……」

昨日出したパジャマのままだ。

取りに行くのは気が引けるし、紗耶も嫌がるだろう。

紗耶 「いいよ。十分すぎるほど」

夏輝 「そう言ってくれると、助かる」

でも。

待ってろよ、紗耶。

諸問題は全て解決してやるからな。

SE ガラガラガラ(遠くの音)

?あやめ 「ごめんくださーい」

?もも 「おーいっ」

紗耶 「?」

夏輝 「お、きたきた! 来ましたよ、援軍が」

背景 廊下

あやめ・もも 「おじゃましまーす」

夏輝 「いらっしゃい、悪いね朝から」

あやめ 「困った時はお互い様よ」

もも 「そうだよっ、お兄ちゃん」

頼もしく笑う二人の手には、食材の入ったスーパーの袋。

あぁ、これで人間の飯が食える。ありがたいなぁ。

清理 「どうかの、紗耶どのの様子は?」

夏輝 「お。清理さんと、楓も来てくれたんだ」

清理 「楓が知らせてくれての」

「見かねて飛んできたんですよ〜」

ほんと文字通りに飛んできたんだろうな。

もも 「ひぃ……」

あやめ 「こら、もも」

恐がりすぎ。

もも 「だって」

「あはははは。いいんですよ〜」

あやめ 「ごめんね?」

「いえいえ。気にしないでください〜」

それにしても、見守っててくれたのか。そういうとこあるよな、楓って。

む、清理さんの手にぶら下がってるのは……ネギ? 振るのか?

まぁ、ともかくだ。

夏輝 「ありがとうございますだお代官様」

清理 「よいよい」

「放っておけませんよー」

友達って、ありがたいよな。

ちょっと俺、目から汁が出そうだヨ。

あやめ 「それで、紗耶は?」

夏輝 「あぁ、こっちこっち」

背景 部屋

紗耶 「あ……」

もも 「お見舞いに来たよーっ」

あやめ 「具合はどう?」

紗耶 「ありがとう、昨日ずっと寝てたから、大分いいよ」

「それはよかったですー」

あやめ 「あら……これは?」

目ざとく部屋の隅に寄せられた俺の荷物を発見するあやめ姉。

あやめ 「もしかして、ここ……夏輝の部屋?」

夏輝 「おう。いきなり紗耶がへたりこんだから慌ててさ」

清理 「ほぉ」

夏輝 「慣れたこの部屋に運び込んじまった、と」

あやめ 「と、いうことはつまり?」

紗耶 「……」

もも 「昨日からずっと、二人きり……」

夏輝 「い、いやまぁこのほうが看病に都合いいしさ」

厳密にいえば、ずっとひとつ屋根の下で二人きりな状況ですが。

「いいよねぇ、つきっきり……わたしも看病されたいなぁ」

なかなか突っ込みにくいことを仰る。

清理 「昔から男女七歳にして……ぶつぶつ」

わかります。わかりますけどネ?

なんか、すげぇ恥ずかしいことしてる気になってきたぞ。

夏輝 「ま、まぁ細かいことは置いといてさ。皆、ジュースでも飲まない?」

清理 「楓」

あやめ 「もも」

ゆびぱっちん?

「はーい」

もも 「らじゃー」

楓は床を抜けて下へ消えていく。

夏輝 「へ?」

ももの両手が、がしっと俺をホールド。

あやめ 「夏輝、退場」

夏輝 「えぇ?」

俺、居るだけで邪魔? そういうこと? 蛆虫野郎ってこと?

あやめ 「紗耶を着替えさせるから」

ああ、そういうこと。

清理 「そういうことじゃ、流石にそれはお主に任せられぬからの」

紗耶 「あの……それくらいは、一人でできるけど……」

あやめ 「病人は黙ってなさい」

紗耶 「はい……」

おお。紗耶が一瞬で引っ込んだ。さすがあやめ姉だ。

もも 「ほら、お兄ちゃん行くよっ」

夏輝 「わかった。わかったからそんな引っ張らなくても」

紗耶 「すいません、お世話になります」

背景 階段

もも 「下でアイス食べようねっ」

夏輝 「おう、いいぞ」

着替えは困ってたもんな、下着とか下着とか、あと下着とかさ。

こればっかりは『やってやるぜ!』的な勢いじゃ……紗耶に殺される。

背景 部屋

あやめ 「あら?」

あやめ 「紗耶……だめじゃない」

紗耶 「?」

あやめ 「男の子と二人っきりでノーブラは無防備すぎるわ」

紗耶 「……っ!」

清理 「わっちはいつものーぶらじゃがの?」

あやめ 「それにしても、紗耶ちゃん、肌綺麗ね」

清理 「じゃのぅ。羨ましいぞ」

紗耶 「や……ちょ、そんな風に触ったら……」

あやめ 「あらあら。どうしたのかしら?」

清理 「ぬふふふ。可愛いのぅ」

紗耶 「やめ……んっ」

「えっちなのはいけないと思います〜」

あやめ 「ふふ。冗談よ冗談」

清理 「……冗談だったかの?」

紗耶 「目が本気でしたよ」

あやめ 「……ふふ」

背景 階段

もも 「ちょっと、お兄ちゃん!」

夏輝 「止めるな、もも!」

夏輝 「男には死地に赴くべき時があるんだ! そしてそれは今!」

もも 「お兄ちゃんの……えっちっ!」

カキーン

夏輝 「あがっ!」

夏輝 「おぅ……まい……」

夏輝 「……ごーるど」

暗転

もも 「お兄ちゃん、その……大丈夫?」

夏輝 「ん? あぁ、大丈夫」

場所に不安はあるが、いつもの事だ。

階段は下手したら死ぬもんな。

そう思うと、もしかしたら紗耶はいつも、気を使って俺をどついてたのか。

……ねーよ。

もも 「ごめんね?」

夏輝 「いいって、もう」

もも 「でも、お兄ちゃんが悪いんだからね?」

夏輝 「ハイ」

もも 「反省した?」

夏輝 「ハイ」

もも 「よしっ」

俺の頭をなでようとして……あきらめたようだ。

かわりに、俺の肩をなでなでする。

……ま、気を取り直してだな。

夏輝 「アイス食おうか」

もも 「うんっ!」

楓が上から落ちてくる

「うあああああああんっ!」

うおっ!

もも画面からアウト

もも 「わひゃうっ!」

おいおい、ももでなくてもびっくりするぞ。

夏輝 「どうした、楓?」

「えっぐ、ひっぐ……」

もも 「ガクガクブルブルブル」

ももは俺の後ろにしがみついて離れない。

泣く幽霊か。ももでなくても怖い……かぁ?

夏輝 「清理さんにでも怒られたのか?」

「ぐしっ、ぐすっ(ふるふる)」

夏輝 「じゃ、どうしたんだ?」

「夏輝くんには言えません」

はぁ?

夏輝 「そら困ったな。俺、ちょっと上に行って事情を聞いて──」

もも 「待って」

夏輝 「もも?」

もも 「ボク、聞いてみる」

おぉ、ももが楓に歩み寄ってくぞ。すっげービビりながらだけど。

俺、もしかしたら歴史的シーンに立ち会ってるのかも。ちょっと感動。

もも 「どうしたの?」

「ぐすっ、ふえっ……」

もも 「お兄ちゃんに聞かれたくないなら、こっちで話そ?」

うわぁ……どうみても妹キャラのももがお姉さんみたいだ。

……楓が聞いたらへこむな。確実に。

「……の……ね」

もも 「うんうん」

二人は部屋の隅で話しているので内容は良く聞き取れない。

ま、ここは大人しく待ってるしかないよな。うん、俺って大人〜。

「お……びにゅ……」

もも 「!」

「ツンって……」

もも 「……」

「……」

なんだ?

もも 「……」

「……」

胸元見下ろして何やってんだ?

二人仲良くフリーズ。

夏輝 「おい、どうし──」

楓・もも 「うあああああああんっ!」

二人ともかよっ!

夏輝 「な、何があったんだよっ?」

楓・もも 「夏輝ちゃんには判らないっ!」

夏輝 「何故っ?」

なぁ……一体、上では何が起こってるんですか?

背景 部屋

あやめ 「ねぇ、紗耶」

紗耶 「なんですか?」

あやめ 「気持ちは判るけど、熱が出てすぐの時は、おフロは止めときなさいね?」

紗耶 「え、な、何を言って……」

あやめ 「隠してもだーめ。すぐわかるわよ」

紗耶 「え、え、ええっ?」

あやめ 「あなたの汗がフローラルの香りとかだったらわからないけどね」

紗耶 「〜〜〜っ!」

清理 「まぁまぁ。そのくらいにして、そろそろ昼時ではないかの?」

あやめ 「そうね、お昼にしましょうか」

あやめ 「そういえば、ご飯はどうしてたの?」

紗耶 「あ、それは夏輝が」

あやめ 「チャレンジャーね」

清理 「じゃの」

紗耶 「くすっ、そうですね。ふふふふふふっ」

あやめ 「何?」

紗耶 「厨房に行ったら判ります。くすくすくす」

あやめ 「そうなの? じゃ、行ってくるわね」

清理 「んむ、何か作ってくるでの」

あやめ、清理アウト

紗耶 「ふぅ……もう、いじられまくりね」

紗耶 「逆の立場だったら……間違いなくやるよね、うん」

紗耶 「いい……もーん、だ」

背景 厨房

あやめ 「……まぁ」

清理 「これは……ひどい。ぷくくくく」

清理さん、うけすぎ。

SE キュッ、ザー

あやめ 「……」

夏輝 「ああっ、俺の仲魔達がっ!」

マグネタイト払ったのにっっ!

時間経過

もも 「お手伝い!」

「わたしもっ!」

楓・もも 「ねーっ」

あやめ 「あら、いつの間にあなた達仲良くなったの?」

何やら相通じるものがあったみたいですよ?

清理 「それは大層良いことじゃの。ところで、楓は料理した事あったかの?」

あやめ 「もも、あなたもよ?」

「大丈夫! もう、今までのわたしとは違うのデス」

もも 「デス」

楓・もも 「ねーっ」

テンションたけーな。

夏輝 「んじゃ、俺はあっち行ってるわ。がんばれよー、二人共」

お姉様二人は激励するまでもなく全く心配ないもんな。

楓・もも 「おーっ」

背景 居間

……

SE どよーん

夏輝 「ど、どうした?」

もも 「出る幕がなかった……」

「ですぅ……」

夏輝 「そうか。まぁあれだ、イキロ」

「死んでますぅ」

夏輝 「そ、そうだったな」

ジェンガでもするか。三人で。

背景 叙瑠樹夜

そうこうするうちに、とっぷり日は暮れて。

……何か、今日はちっとも紗耶の看病をしてない無い気がするな。

ま、いいか。

夏輝 「皆、ありがとなー」

清理 「なんの、困った時はお互い様じゃよ」

あやめ 「そうそう、遠慮なんかしないでよ」

夏輝 「いや、マジ助かったよ。俺一人だったらどうなってた事やら」

あやめ 「紗耶ちゃん、今頃はお通夜かしらね」

夏輝 「ひでぇ」

もも 「じゃあ、ボクが病気になったらお兄ちゃんが看病してねっ」

「あ、わたしもー」

おい。

夏輝 「あはは。借りはかならず」

あやめ 「そんなこと言わないのっ」

うっ、でこをツンですか。照れるな。

あやめ 「いじりつくしたから気は済んだし」

清理 「あはは、そうじゃの」

夏輝 「え?」

あやめ 「何でもないわ」

夏輝 「そうですか」

もも 「じゃあ、ボクたち帰るねっ」

「また明日です」

あやめ 「何か困ったら呼んでよね?」

清理 「わっちでも良いぞ?」

夏輝 「わかった。また明日、ばいばい」

背景 廊下
ガラピシャン

夏輝 「ふぃーっ」

ほんと、紗耶も俺も随分助けられちゃったな。感謝、感謝。

……何だか、すごい騒ぎにしてしまった感もなくはないが。

背景 部屋

俺の献身的な看護と皆のスキルが功を奏し、紗耶は穏やかな寝息を立てている。

元々エネルギーの塊のような女だし、明日には殆ど回復するだろう。

夏輝 「ありがたいよな、紗耶。お前、大事にされてんだな」

皆、すっ飛んで来てくれたもんな。

夏輝 「治ったら、一緒にお礼言いに行こうな」

友達という名の優しさに感化されたらしく、俺の言葉は今、別人のように柔らかい。

紗耶 「……この鈍感(ぼそり」

夏輝 「悪りぃ、起こしちゃったか。で、何だった?」

紗耶 「……」

何やらむくれている。だが、博識な俺はこれが患者の病によるストレスからくる幼児化だと知っている。

おしぼりペタリ

夏輝 「気分はどうだ?」

紗耶 「……ぷいっ」

本当にむくれているようだ。だが、俺は(ry

夏輝 「ポカリ、飲むか?」

紗耶 「いらない」

ま、まぁ、受け答えも昨日より随分ハッキリしてるし、大分良いみたいだな。

夏輝 「そっか」

紗耶 「……」

夏輝 「あのさ」

夏輝 「俺、お前とドタバタやりあってるの、結構楽しいみたいなんだ」

多分、昔もこうだったんだと思う。紗耶が暴れて、俺がやり返して。

夏輝 「殴られんのが好きッて意味じゃないぞ? 痛いんだぞ?」

エンドレスでバイオレンスな俺達の関係。

でも、混じり気無しの親しみから導き出される関係。

夏輝 「だから、さ」

これが既視感なのかはわからない。でも、確かにある感情。

そして確かに感じる俺達の繋がり。

紗耶 「……」

夏輝 「早く元気になれよ」

俺達には元気にやりあうのが一番相応しいよな?

紗耶 「……寝る」

夏輝 「あぁ」

背景 黒
SE カチッ

夏輝 「おやすみ」

明日はきっと、な? 紗耶。

日付変更、翌朝SS強制発生
背景 黒

紗耶 「起きなさい」

SE ガバッ
背景 部屋(一瞬で
エフェクト画面一回転

夏輝 「ぐおおおおおっ!?」

SE ドガッ

夏輝 「ま、まわ、マラサイッ!!!!!!!!!1」

紗耶 「朝よ」

夏輝 「元気になりすぎだっ!」

薄れる視界の中で、もう爛々と形容した方が似つかわしいまでに輝く紗耶の笑顔を見ながら、俺は「あぁ、よかったな」と──

思う余裕などある筈もなく。