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SE;セミの鳴き声 背景じょるじゅ

夏輝 「あっちぃー」

容赦なく照りつける太陽の下、何故に無防備に体を晒しているのかというと。

紗耶 「意外に草むしり早いのね」

そういうわけだ。

俺の横には、抜かれた雑草が山のようにつまれている。

劇的な(?)告白を終えた翌朝。

就寝前の紗耶様のご立腹具合から、険悪な朝を覚悟していたのだが、俺の予想の斜め上を三回転半スピンで突き抜けた。

紗耶さん、超ご機嫌。

鼻歌交じりに談笑し、楽しくあやめ姉達と無事下山。

帰宅して後片付けが終わると

紗耶「お昼ご飯食べたら、表の草むしりね」;(紗耶笑顔)

まっぶしー!超まっぶしー笑顔でいつも通りこき使うのねー!

……

と、まあ、こういった流れで今に至る。

夏輝 「じゃあ何だったんだ? あの機嫌の悪さは……」

紗耶 「何か言った?」

夏輝 「この雑草達のように強く逞しく生きようと誓いをたててました」

紗耶 「いいんじゃない? いい心がけ」

うぅ、くそう。

余裕しゃくしゃくですな。

夏輝 「でも、もう暑い、暑すぎる。道路のカエルのごとく干からびてしまいそうだ」

紗耶 「じゃ、新たに芽生えた雑草にも水をあげましょうね」

SE:水をかける音 ばしゃっ

夏輝 「うおっ! つめてっ!」

紗耶の手に握られた、シャワーノズルの付いたホース。

草むしりの進行具合を見に来たついでに、花の水やりと、表の打ち水をするつもりだったのだろう。

紗耶の動きには、本当に無駄が無い。

紗耶 「もう少しよけてくれる? 朝顔に水がかからないじゃない」

しかも、俺に水をかけるついでに朝顔への水やりですか。

虐げられすぎじゃね? 俺。

あんなに熱烈に告白したというのを引きずっているのは、俺だけなのか?

大打撃!

大ショック!

スポットライトがあるなら、今ここでorzを体言している俺にあててくれ。

しかし、ここで落ち込んで終わるようじゃあ主人公ではない……

ならば、俺だって!

夏輝 「この悪政に民だって立ち上がる!」

SE:だだだ 
背景:階段

夏輝 「こういう時の為に仕入れておいたアレがっ!」

SE:だだだ
背景:夏輝自室

夏輝 「ついに日の目を見る時が来た!」

ピンチになったドラ●モンの如く、買った玩具を放り込んである箱からあれこれ投げ出す。

結構無駄なモン買ってるな。

スライミィだとか、擦ると糸の出る紙とか、

商店街の駄菓子屋は子どもの夢がいっぱいだからな。

夏輝 「ててれてん♪ みずでっぽぉおぉうっ♪」

大山●●代風に紹介するが、見る人はいない。

いいのだ。

しらしめたいのは、この商品の名ではなく、これの威力なのだから。

SE;だだだ
背景階段

夏輝 「待っていろよ悪代官!」

SE;だだだ
背景キッチン
SE;水を注ぐ音

夏輝「この手で引導を渡してやる!

SE;だだだ
背景じょるじゅ前

夏輝 「ぎゃふんと言わせてやるんだからー!」

SE;水音、ばしゃ

紗耶 「あんな勢いで部屋に戻ったアンタを、何もせず迎えると思う?」

玄関引き戸の影にしゃがんで隠れていた紗耶が、ホースの照準をこちらに合わせている。

夏輝 「さすがだな。だが、まだまだ俺はやれる!」

この水鉄砲はちゃちな水鉄砲とは違う!

タンク容量は900cc

飛距離はなんと10メートル!

至近距離にいる紗耶など目じゃないわぁあぁあぁ!

SE;水音、ばしゃ

紗耶 「まだまだ甘いわね」

夏輝 「さ、紗耶のくせにお洒落な日傘など持ち合わせるとは!」

紗耶 「しかも雨天も使える便利な折りたたみよ!」

紗耶は、見えるか見えない程度のレースをあしらったシンプルな日傘を構えている。

使った所を見た事ないぞ。

そして今使うなんて、ちょっと使い道ずれてるぞ?

しかし。

ホースでの放水という武器、晴れ雨兼用の傘。

なんというバランスのいい軽量級戦士!

ヤツは自分の身体能力の活かし方を知っている!

俺は手早く、干してあった大きめのプラスチックたらいを片手に応戦し始める。

夏輝 「こしゃくな!」

SE;ばしゃ

紗耶 「どこを撃っているの?」

SE;ばしゃ

夏輝 「これならどうだ!」

SE;ばしゃ

紗耶 「あっ! ま……まだまだよ!」

よし! 紗耶の肩に着弾!

ふっふっふ、勝負はこれからだぜ!

夏輝 「観念しな!」

SE;ばしゃ

紗耶 「後悔させたげる」

SE;ばしゃ

……勝負が付くまでにそれ程時間はかからなかった。

紗耶 「思ったより濡れちゃったわね」

分が悪すぎだろ、水の補給が必要な水鉄砲VS常にバズーカーのような威力のホースじゃさ……

上半身だけ濡れてしまった紗耶と、頭から足の先までずぶ濡れの俺。

あーあ、パンツの中までぐっしょりだ。

くそう、紗耶め。手強いな。

…………!

恨めしげな視線を紗耶に送ったときに気付いたのは

濡れて肌に張り付いたシャツ。

夏用の生地は、通気性の為に本当に薄いよね。

濡れると、下にある地肌の色も透けるよね。

ぴったりと紗耶の肌に張り付いたシャツは、その胸を覆う心ときめくアイテムをも惜しげもなく見せ付けてくれる。

こういうシチュエーションは、相手に「見せる」という意識が無いから、エロスを感じる。

さりげなく、ごくさりげなく。

気付かれないように鑑賞するという、高度なスキルを行使する。

紗耶 「マジマジ見るな!」

SE;衝撃音

バレてましたか……

紗耶 「濡れたついでにシャワー浴びてくるわ」

夏輝 「俺の方がずぶ濡れなんですけど」

紗耶 「そこまで濡れたら、もうシャワー浴びたようなもんでしょ」

確かに。

……って、丸め込まれてどうする! 俺!

紗耶 「はい、着替えすんだら、冷蔵庫にスイカ冷やしてあるわよ」

どこに置いていたのか、紗耶は俺にバスタオルを投げてよこした。

夏輝 「気が利くな、紗耶って」

紗耶 「予想つくじゃない、この流れ。アンタが水鉄砲取りに行ってる間に用意しといただけよ」

夏輝 「いい嫁になるだろな、お前」

別に何かを意識して言ったわけじゃなく、素直に思った事を口に出しただけなのだが

相手はそう取ってくれなかった

紗耶 「っ…! ま、まだ何も返事してないでしょ! な、な、何いってるのよ!」

夏輝 「ちょ、お、俺だって、そこまで考えて言ったわけっ……!」

ついつられて、こっちまで気恥ずかしくなってしまう。

紗耶の方はだんだんお約束になってきた茹でだこ状態。

落ち着く為に深い深呼吸をすると紗耶は

紗耶 「……ちゃんと、思い出してよね」

と言い残し、さっさと風呂場の方へ向かう。

よほど動揺していたのか、いつもなら揃えて置かれるサンダルが、乱れたまま玄関先に脱ぎ捨てられていた。

夏輝 「はー……。楽しさについ忘れていたが、そんな課題もありましたな」

……早くクリアして楽になりてぇ。

乱暴にバスタオルで頭を拭き、心の隙間をスイカで埋めるべく

キッチンを目指す事にした。

(夏輝妄想中)

紗耶 「本当に思い出してくれたのね! 私も、私も大好きよ!夏輝!」

ぎゅうぅううぅう!!!!!

(夕方の公園)

勿論、妄想なので抱きしめる相手はおらず、空しく自分の肩を抱きすくめただけ。

人生で初めて、物覚えの悪い自分が呪わしく思えた。

夕暮れ時。

この時間ともなると、風も大分冷たくなって、過ごしやすくなり

ひぐらしの鳴き声が、そろそろ秋の訪れを感じさせる。

夏休みが終われば、この島ともお別れ。

紗耶とのグッドエンディングを迎える為には、過去の自分を取り戻さなくてはならない。

俺はベンチに腰を落としたまま、深くため息をついた。

……!

秋の風のつめたさではない寒気が背筋を駆け下りた。

反射的にずり落ちるようにベンチから離れる。

阿部 「なっちゃんは勘がいいな。さすがマイ・スィート・ハニー」

先ほどまで俺が座っていたベンチの後ろから、阿部さんが現れる。

数秒逃げ送れていたら、あの逞しい腕に抱きしめられていたに違いない。

危なかった。

本当に危なかった。

紗耶といい、阿部さんといい、この島での恋はスリリングだな。

あ、阿部さんの想いは恋じゃないか。

恋じゃないな!

恋に対して失礼だな。

阿部 「それは俺の想いに失礼だよ、ナッちゃん」

夏輝 「思考を読まないで下さい」

阿部 「本当は君の心の中よりも、体の中に入りたいんだがな」

夏輝 「どうしてそう、さらりとオゾマシイ台詞を吐けるんですか!」

阿部 「そんな事より、ナッちゃん。なんだか、悩んでるように見えたけど」

阿部さんは気取ったような苦笑を浮かべると、話題をかえる。

何もかもお見通しといったこの人は、良くも悪くも兄貴だな。

どうせお見通しなら、相手が阿部さんでも話してみようかな。

夏輝 「実はこの前、紗耶に告白をしたんです」

阿部 「ほぉ、ナッちゃんからだったか」

夏輝 「紗耶からだなんて考えられないでしょ」

阿部 「やれやれ、なっちゃんはとんだベーべちゃんだな」

阿部さんは、ベンチに腰を掛ると、こっちへおいでと隣へ俺を促した。

夏輝 「……はぁ」

阿部 「さて、ナッちゃん」

夏輝 「はい?」

阿部 「や ら な」

夏輝 「チャックを上げろ」

阿部 「オーケイだハニー」

ったく油断も隙も無い。

阿部 「『好き』ならあるぜ」

夏輝 「だから思考を読むな」

夏輝 「……紗耶は、俺との思い出を大事にしてくれてるんですが、俺のほうがほとんど覚えてないんですよ」

阿部 「……」

夏輝 「それで、一つでも過去の事を思い出したら、返事をくれると」

阿部 「悩む事は無いじゃないか。」

即答。

何の迷いも無く、阿部さんは言い切った。

阿部 「やる事は決まっている。君は紗耶ちゃんの気持ちを振り向かせたい」

阿部 「その為になら、君はどんな苦労でもできる覚悟がある」

阿部 「だったら、行動あるのみだろう?」

とてもシンプルな答えだった。

確かにそうだ。

この人は、いつも迷いが無い。

自分に素直、っていうのはあるだろうけど、それ以上の何かがあるような。

色々経験豊富そうだし。

尊敬の眼差しで阿部さんをみていると、彼は一つため息をついた。

阿部 「残念だが、俺達の関係は無かった事にしてあげるよ」

夏輝 「最初から何もありませんからっ!」

阿部 「もし、紗耶ちゃんに振られたら、いつでも戻っておいで」

阿部 「傷ついたナッちゃんの身も心も癒してやるからさ」

夏輝 「今日はどうもありがとうございました」

この会話をいつまでも続けていたら、無理やり貞操を奪われそうだ。

先ほどまでのけだるさを払拭した俺は、公園を後にする。

なんだかんだで、阿部さんは本当に心配してくれるんだよな。

冗談とも思える阿部さんの気持ちを、ないがしろにしたようで、多少の罪悪感を感じかけた。

だけど、それすらも、最後の会話で後腐れのないものに変えてくれたのだと、ポジティブに受け取る。

夏輝 「よしっ!出来る限りの事はするぞ!待ってろよ、紗耶!」

決意あらたに除瑠樹へ向かう。

両思いになれた訳じゃないのに、意中の娘の手料理が食えるというのは夢のようだね。

まだまだ、夏はこれから、っていう感じがしてきた。

END